2009
12.16

林芙美子の文学(連載128)林芙美子の『浮雲』について(126)

林芙美子の文学, 林芙美子関係

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「喫茶 芙美子」 尾道にて(2009.11.14)
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林芙美子の文学(連載128)
林芙美子の『浮雲』について(126)

(初出「D文学通信」1332号・2009年12月16日)
清水正


ゆき子の大胆な生き方に逞しさと哀れを感じながら、
富岡はゆき子に欲情を感じる。が、ゆき子の激しい怒
りの言葉に疲れ果て小舎を後にする。


2009年12月13日(日曜)
〈二十二〉は次のように始まる。
もう一度、逢うつもりで、富岡は、ゆき子のところへ速達を出した。
あの家で逢う気はしなかった。おびえた心で、あの家に坐っている気はな
かったので、富岡は、四谷見付の駅で待ちあわせるようにして、時間と日
を知らせてやった。
(251 〈二十二〉)
もう一度ゆき子に逢いたいと思う富岡の気持ちが微妙である。林芙美子
は、富岡がゆき子に逢って帰った来た夜、遅くまで引っ越しの荷造りをし
ていた邦子とどのような会話があったのかをまったく描かなかった。富岡
はその夜、華麗な化粧をほどこして、新しい男と関係を結ぶようになった
ゆき子のことで頭が一杯で、とにかく〈もう一度〉逢って、ゆき子の本心
を確認しなければならない、そうでなければきっぱりと別れることはでき
ないなどと思い始める。
富岡は日本に引き揚げてきたゆき子の心の移り変わりを見て、そこに
〈微妙な女心〉を感じるが、富岡とて同じようなものである。ゆき子と結
婚の口約束をして日本に引き揚げてきた富岡は、邦子と別れることができ
ず、事業にも失敗し、家を売り払い、両親と妻を親戚の家に住まわせなけ
ればならなくなった。それでもゆき子の当面の暮らしを支える金を持参し
て小舎を訪ねれば、ゆき子はすでに娼婦まがいの生活に踏み込んでいる。
ゆき子の大胆な生き方に逞しさと哀れを感じながら、富岡はゆき子に欲
情を感じる。が、ゆき子の激しい怒りの言葉に疲れ果て小舎を後にする。
しかし、この時、富岡はゆき子との永遠の別離を決断できず、相変わらず
の優柔不断で、逆に強い未練を感じてしまう。今までゆき子にとって富岡
は〈絶対〉であったが、ジョオと新たな関係を結んだ後では〈相対〉的な
存在へと後退した。〈絶対〉から〈相対〉へと追いやられた富岡は、もち
ろんいい気持ちはしない。しかし、どんなに落ちぶれても見栄を張らずに
はおれない恰好つけの富岡は、嫉妬心を精一杯抑えていたが、ゆき子の激
しい怒りの言葉に耐えられず小舎を後にした。しかし、外国人と関係を持
ったゆき子の逞しさに、富岡は再び惹かれはじめる。

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