2009
09.02

「ZED」を観る(連載29)糸井重里の「ほぼ日刊イトイ新聞」を読む(その4)

「ZED」を観る

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カタログより。ジル・サンクロワさんと糸井重里さん
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「ZED」を観る(連載29)
(初出「D文学通信」1226号・2009年09月02日)
糸井重里の「ほぼ日刊イトイ新聞」を読む(その4)  
清水正

「シルク・ドゥ・ソレイユ」と
創始者の一人、ジル・サンクロワの秘密に迫る。(4)
ジルの独自性は、上昇性と水平性のすぐれたバランスにある。
これはジルが意識するしないにかかわらず、
彼が得意とした〈竹馬〉の性格そのものの反映である。


  ジルはパフォーマンスで生活できるだろうか、と考えた時にも自分だけ
で結論を出さない。彼はいろいろな人に相談し、自分でも慎重に考えた末
に「ストリートで演じるグループ」をつくることにする。ジルは「ブレッ
ド・アンド・パペット・シアター」を手本にして、「伝説や神話をひとつ
の軸にして、ダンスやアクロバットを組み込みながら、音楽を奏でて大き
なストーリーをつくってみたい」という思いに到達する。
ジルの独自性は、上昇性と水平性のすぐれたバランスにある。これはジ
ルが意識するしないにかかわらず、彼が得意とした〈竹馬〉の性格そのも
のの反映である。余りに上に昇り過ぎれば〈竹馬〉はバベルの塔と化して
神の厳罰を受けることになろう。かと言って余りに低きに甘んじていたの
ではショーの演目として人目を引きつけることはできない。
ジルはストリート・パフォーマンスを道楽でやろうとしていたのではな
い。それはジルにとって〈仕事〉(生活の糧を得る)として採算がとれな
ければならない一つの事業(ショー・ビジネス)であった。ジルは「神話
をモチーフにしたストリートでのパフォーマンス」をプロジェクトとして
まとめ、1979年に政府に提案して資金援助をしてもらおうと考える。幸い
にしてジルの提案は受け入れられ、政府は5000ドルの資金を提供してくれ
る。ジルはその金でライターを雇い、セットやコスチュームも作る。
ジルが、ストリート・パフォーマンスのグループをつくっただけでなく、
同時に資金提供を政府に働きかけたことに注意しておく必要があろう。ス
トリート・パフォーマーと言えば、どちらかと言えば反体制的なアウトロ
ーの大道芸人を思い浮かべる。国家や国境を超えて漂浪するジプシー、ア
ナーキーな反骨精神丸出しの、とにかくどんな性格のものであれ、自分た
ちの行動を束縛することを極度に嫌う芸人たち・・いずれにせよ、わたし
の中で大道芸人のイメージは反体制的であり、時の国家から資金援助をし
てもらうなどというイメージは微塵も浮かんでこなかった。
「政府に提案して資金援助をしてもらおうと考えた」というジルのこの
言葉に、秘められた皮肉や苦渋の色は全くない。ジルは天真爛漫な子供の
ように、率直に資金援助の話を口にしている。ジルはストリート・パフォ
ーマンスを日陰の芸とはまったく考えていない。ジルはグループを結成し
た当初から、彼が作り上げようとしていたパフォーマンスを表舞台で演ず
るものという確信を持っていたのであろう。この未来に向けての明るいヴ
ィジョンが、パフォーマンスの舞台を〈ストリート〉から都市中央の〈大
劇場〉へと更新させる原動力となったことは疑い得ない。
事業の成功は、パフォーマンスのコンテンツや構成のみならず、資金調
達を真剣に考えたことにもよる。さらに感心するのは、ジルが自分のアイ
デアを情熱をもって語り、関心を持ってくれる人をいつも探していたとい
うことである。ジルは金儲けのためにプロジェクトを立ち上げたのではな
い。自分の〈夢〉を確実に実現するために、政府にまで働きかけて資金調
達を図ったのである。
しかし、すぐれた作家やアーティストたちを集めようとすれば、資金は
すぐに底をつく。ジルは苦境に立たされる。しかしジルは屈せず、再び政
府に資金援助を申し出る。政府の担当者は、ジルの経験不足を理由に申し
出を拒絶する。ジルはこの時も友人に相談する、友人の画家は「一般に広
く知られている人にだったら、政府も信用してお金を出すだろう」と言う。
「それにはどうしたらいいのか」とジルが訊くと、画家は一言「キミが有
名になればいいんだよ!」と答える。
画家のアドバイスは、それを聞く者の心を熱く奮わせる。ジルはすばら
しい友人を持っている。ジルが、いつも自分の壮大な夢を語り、悩みを相
談する、そういった他者にいつも心の窓を開いている男だったからこそ得
ることのできた的確なアドバイスである。ジルがやろうとしていることは、
彼一人の力ではどうすることもできない。企画者、クリエイター、アーテ
ィスト、スタッフたちが一致団結してことに臨まなければ成功はおぼつか
ない。ジルの明るく、ユーモアのセンスに溢れた、情熱的な性格が多くの
ひとを動かし、彼の〈夢〉を現実のものにしてくれたのであろう。
「ほぼ日刊イトイ新聞」に掲載されたジルの肖像写真は、彼の人柄をよ
く反映している。顔の表情は笑みに溢れ、両手を使った身振り手振りは彼
の自信、情熱を端的に語っている。ジルは糸井重里一行に極めて友好的で、
彼の言葉はもちろん、彼の表情が実にユーモア精神溢れた深みのあるもの
となっている。〈夢〉を実現した者の、「私は私である」という確固たる
アイディンティを保持する者の、毅然とした男のダンディズムを感じる。

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