韓国ソウルで『冬のソナタ』を読む

韓国ソウルで『冬のソナタ』を読む(2)

〈バス〉を追いかける女の子
 
体制に対して反抗しない若者たち
 ヒロインの女の子チョン・ユジンは高校二年生、いつも通学のバスを追いかけているような遅刻の常習犯である。つまりこのヒロインの第一印象は〈走っている女の子〉である。高校二年生と言えば十六、七歳である。ユジン役のチェ・ジウは当時二十五歳、高校二年生にしては少しばかりふけているという印象は拭いがたい。このチョン・ユジンが付き合っているのが幼なじみのキム・サンヒョクである。サンヒョクはクラス委員の優等生で、真面目を絵に描いたような好青年である。

 
チョン・ユジンはいつもバスに乗り遅れそうになる。しかし、結局は間に合う。ユジンは遅刻の常習犯である。しかし、学校を退学になったりはしない。ユジンは学校が嫌いではないし、別に誰かに不満を抱いて反抗的な態度をとったりするわけでもない。ユジンは一見、ふつうのどこにでもいるような女子高校生に見える。あまりにふつう過ぎてドラマの主人公にはなりえないタイプのようにさえ見える。なぜ、このようなふつうの平凡な女の子が主人公足りえたのか。ひとつにはユジンを演ずる女優チェ・ジウの魅力によるところがかなり大きいであろう。かつて日本で「花嫁にしたい」ナンバーワン女優であった東ちずるとどことなく似ているチェ・ジウの顔つきは、日本人に好かれる要素を多分に備えている。

 ユジンは〈バス〉という体制(秩序、モラル、儒教的精神)に反逆する者ではない。ユジンはいつも一生懸命、〈バス〉に乗り遅れまいと走っている。その走る姿に反抗も抗議も皮肉もない。ユジンはひたすら遅れまいと〈バス〉を追いかける。しかし、いったん〈バス〉に乗ると、今度は安心して寝過ごしてしまう。ここにも〈バス〉に象徴される体制に対する反逆の牙は微塵も見えない。むしろユジンは体制の側にある時にこそ安心しているかのようだ。ユジンは遅刻に対して口うるさく注意する教師にたいしても、いっさい反抗的な態度をとらない。ユジンに限らず、このドラマに登場する若者たちは体制に対して反抗的な姿勢を見せない、という一大特徴を等しく備えている。

 それにしても、なぜユジンは性懲りもなく〈バス〉を追いかけ、遅刻を繰り返すのであろうか。ここにはあんがい、多くの観客が見落としているユジンの性格の〈謎〉が潜んでいるかもしれない。ユジンは一生懸命走っていないと〈バス〉(体制)に乗り遅れ、弾かれ、はぐれ者になってしまう、そういう性格の持ち主だったのではなかろうか。

 サンヒョクはユジンの幼なじみであるが、この優等生は〈体制〉の象徴である。ユジンはサンヒョクと一緒にいると落ちつくが、しかし彼は運命の人ではない。ユジンはサンヒョクに胸がときめいたことは一度もない。ユジンはサンヒョクを一生懸命、走ってその後を追わなければ、自然に離れてしまう、そういう存在であることを知っている。

 ある日、バスの中で寝入ってしまったユジンの側に一人の青年が坐っている。この青年がカン・ジュンサンである。科学高校からの転校生、数学と音楽の天才で、無口でクールな青年である。まさに少女マンガに登場する白馬に乗った王子さまのようなハンサムボーイである。転校生とは、それだけでどことなく魅力な存在であるが、ぺ・ヨンジュン演ずるルックスのいいカン・ジュンサンは、どことなく影のある秀才であるから、クラス中の女の子を虜にするほどの魅力を備えていたということになる。

 ユジンはジュンサンと会うために、毎日〈バス〉に乗り遅れていたのではないかと思えるほどである。もしユジンが遅刻などしない真面目な生徒であったなら、ジュンサンとバスの中でめぐり合うことはなかったであろう。数学と音楽の天才ジュンサンもまた〈バス〉に乗り遅れるような青年であり、その点において彼もまた必死にしがみついていなければ〈体制〉からはずれていくような傾向を持った青年だったということになろうか。

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