文芸学科四年生の花田塁君がダンスを踊るという。彼は所沢でわたしの授業を受けていたし、今は「雑誌研究」を受講している。ところがあまり出席はしない。いつも何か忙しそうにしている。二年前、或るサークルを立ち上げた時、彼は代表者としてよくその役割を果たしていた。彼が芸術学部の「ミュージカル研究会」に所属していたことは知っていたが、ダンサーとして活躍していたことはまったく知らなかった。今回、彼が出演する舞台を観るために文芸評論家の山崎行太郎氏を誘って助手の山下さん、大学院生の栗原君と共に会場のある代々木上原に向かった。
会場は熱気に包まれていた。芸術学部の学生たちが大勢詰めかけていた。一番後ろの席についてしばらくすると、いきなり耳をつんざくばかりの音響が鳴り響き、何十人もの踊り手たちの激しい動きに圧倒される。若い人たちの異様な熱気が実に心地よい。
特に『MK一座演目 和舞→紅姫→天下→式→乱菊』がよかった。真っ赤な袴、真っ白な羽織を着た舞姫たちの踊りに、何か日本人独自の霊的な力を感じ、身震いする思いであった。この踊りは何回でも観たいと思うほど迫力があった。公演後、チラシを見ると振付は松尾耕とある。この人は踊り手としてもすばらしかった。松尾氏には才能を感じる。この人の振付は〈舞踊〉〈ダンス〉を現代に蘇らせる力を感じた。
花田君は、授業の時とはまるで別人のように生き生きとしていた。この夜、わたしたちはすばらしいダンスに酔いしれるようにして美味いビールを何杯も飲み干すことになった。(清水正)
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