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五十嵐綾野さんの寺山修司論(連載43)
三沢でのこと
五十嵐 綾野
青森県三沢市。かつては古間木と呼ばれていたこの土地で、寺山修司は幼年時代を過ごした。一九四五年(昭和二〇年)七月二八日、青森大空襲で焼け出された寺山と母・はつが身を寄せた場所である。終戦ののち、四年間をこの地で過ごした。
一九九七年(平成九年)七月二七日、ゆかりの地である三沢市に寺山修司記念館が設立された。母・はつから寄贈された遺品は一万二千品に及ぶ。これらすべては三沢市に寄贈されている。設計デザインは天井桟敷館と同じく粟津潔が手掛けている。
生まれて初めて訪れた三沢市である。やけに強い日差しが印象に残っている。駅前にはタクシーが数台止まっているだけでがらんとしている。そもそも、私以外に三沢駅で降りる人がほとんどいなかった。観光シーズンをあえて外したからだろうか。駅前には必ずコンビニがあるという生活に慣れ切ってしまっているため、違和感を覚えた。
現在の三沢駅はきれいに整備されているため、戦後間もなくの面影はない。駅の裏には川が流れていて、昔ながらの民家や神社が残っていた。どことなく寂しい空気が漂うのは、繁華街ではないからだ。米軍三沢基地付近に繁華街は移ってしまったことを知ると、納得した。
寺山が九歳の頃、母・はつは米軍三沢キャンプで働くようになった。戦死した父親のかわりに母・はつは働かなくてはならない。戦後間もなく女性が働くことは大変だったことだろう。寺山自身も感じていた、やるせなさや悲しみが「かくれんぼ」という遊びに熱中させた。寺山がこの「かくれんぼ」をした神社は今でも三沢駅の裏に残っている。
『誰か故郷を想はざる』に次のように書いてある。
「帰りの遅い母を待つ間の退屈さ、「鬼畜米英」のベースキャンプへ就職して、(しかもメイドというきわめて低い階級の労働に甘んじている母への)近所の人たちの陰口、悪い噂などに抗しかねて、「かくれたい」とおもっていたのかもしれない。」
三沢駅から記念館までは距離にして約十三キロある。途中には米軍三沢基地や三沢空港がある。米軍基地の周りの高い鉄の柵や英語の看板、アメリカ人たちの住居が立ち並ぶ。幼い寺山の心にアメリカはどのように映ったのだろうか。頭上を絶えず飛び交う飛行機の爆音を聞きながらそう思った。
さらに道を行くと、市民の森公園の中に記念館があった。途中にある、赤い背景に黒字の「寺山修司記念館」という看板がすでにテラヤマワールドを感じさせた。
公園の中にあるので、モダンな建物はすぐにわかった。都心の真ん中にあっても違和感がないデザインであり、天井桟敷館を思い出させる。誰が見ても、地方にある記念館という概念がなくなることだろう。想像以上に立派であった。
外壁には寺山の作品である俳句や本人と交流があった人たちのメッセージが書いてあるカラフルな陶板が埋め込まれている。「言葉の錬金術師」の異名とる寺山である。自らの記念館の壁すら言葉で作ってしまうとは徹底している。
さらに、展示棟とホワイエ棟は渡り廊下でつながっている。この建物は上から見ると作品の中でお馴染みの柱時計の形になっている。外側の建物だけでも見るのに時間がかかる。これではいくら時間があっても足りない。一体建物の中はどうなっているのだろうかと気になった。
2010年1月 6日
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