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「ZED」を観る(連載i②)


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トレーニング・ルームで練習するアスリートたち

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  「ZED」を観る(連載②)
(初出「D文学通信」1199号・2009年08月04日)
清水正

わたしは「ZED」を観ながら宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』との共通性を
想っていた。女神や天使が舞い降りてくる〈地球儀〉は、カムパネルラが指
さす〈石炭袋〉(コールサック)を想起させる。カムパネルラはその深くて
暗い穴の向こう側にみんなが集まっている〈天上の世界〉があると言う。し
かしジョバンニはいくら目をこすって見ても、〈石炭袋〉の闇しか見えない。
「ZED」の観客が〈地球儀〉の頑丈そうな鋼鉄製の外側しか見えないよう
に。

ここから続き

私見によれば、カムパネルラは川に溺れてすぐにジョバンニのいる列車に
乗り込んで来たのではない。カムパネルラはすでに一度、〈石炭袋〉を通過
して美しい〈天上の世界〉に到達した者であり、再び〈石炭袋〉を通過して
ジョバンニの列車に乗り込んで来たのである。その目的は、ジョバンニに美
しい、みんなが集まっている本当の〈天上の世界〉の存在を示すためにであ
る。が、未だジョバンニはその〈天上の世界〉を見ることができないままに、
再び地上の世界へと帰還してこざるを得なかった。

「ZED」における二人の道化は大きな書物の中に身をもぐりこませ、
〈地上の舞台〉から奈落へと落ちていった。しかし、この〈奈落〉は〈地球
儀〉の奥に存在する〈天上の世界〉へと通じているように思える。
〈地上の舞台〉(中央の円形舞台と周囲に設けられた舞台)における様々
な芸当、舞踏、空中舞踊、映像、演奏が渾然一体となって世界は一つのユー
トピア時空が現出する。天と地の融合にとどまらず、それは見えざる地下世
界と天上世界をも繋いで世界は丸く一つの理想を現出している。

劇場の外に一歩出れば、宗教や民族やイデオロギーの違いによる戦争、紛
争は依然として続いている。せめて、ここ「シルク・ドゥ・ソレイユ シア
ター東京」内では、何のいさかいもない平和で幸福な世界の実現を思う存分
堪能してください、ということであろうか。

わたしは幼い頃からファンタジーの世界に完全に耽溺することはできない。
美しい幻想的な世界を堪能することはできても、自分が現実の世界に生きて
いることを忘れることはない。限定された、地上世界の一隅に人工的に作ら
れたディズニーランド内に劇場「シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京」
は建てられている。

世界の優秀なアスリートを集め、日々の厳しい訓練を積み重ね、観客の目
を楽しませ、心を躍動させる舞台を作り上げることは決して生易しいことで
はない。観客の大多数はこの異空間の劇場に壮大な仕掛けによるショーを楽
しむために集まってくる。娯楽、エンターテインメントとしてのショーの第
一の役割は、観客を楽しませることにあり、深く考えさせたり、ショックを
与えることにはない。

コンピューターで管理支配された〈地球儀〉の作動によって、演技者は空
中に舞い降り、舞い上がり、天と地とを自在に浮遊する。演技者の高度な演
技にも圧倒されるが、わたしはそれ以上に〈地球儀〉の存在と、それを管理
支配するコンピューターの存在に圧倒された。

実は、ショーを観おわって、わたしたち六人は演劇学科卒業生で、今年か
ら演劇学科の非常勤講師を勤めている中村太郎氏のガイドで舞台裏を案内し
てもらった。七階から見下ろす〈地上の舞台〉にはすでに黒服の係員数名が
巨大な白いテントを広げ、次の舞台に向けての準備作業にかかっている。観
客席通路を清掃する者も何人か見える。

観客席から見上げていた〈地球儀〉は、水平の眼差しで捕らえることがで
きる。何百、何千という金属製の柱や棒で構築された〈地球儀〉は、それ自
体が一種の不気味な生物のようにも見える。コンピューター管理室(指令
室)は四階にあり、そこには若い技師たちがコンピューター画面を前にして
静かに座っている。

巨大な〈地球儀〉はこの司令室から完璧に統御され、もし万が一の事故が
起きた場合はすべての作動をストップさせる装置が壁に付けてあった。中村
氏の説明を聞きながら、わたしたちは次に〈地上の舞台〉の底にあたる奈落
へと案内された。ここでも、黒服のスタッフたちがてきぱきと自分の仕事を
こなしていた。舞台で使われる衣装や小道具、道化たちがもぐり込んで奈落
へと姿を消した〈書物〉も置いてあった。

トレーニング室の扉を開けるとそこには、一番若いという十六才の少年か
らベテランらしいひとまでが、真剣に練習に励んでいた。日々の訓練がいか
に大事かということをまざまざと見せつけられた思いであった。衣装室には
ここでデザインされた様々な衣装が所狭しと飾られていた。短い時間であっ
たので、スタッフたちと言葉を交わすことなく通りすぎたが、やはりどんな
に設備が複雑になり、コンピューター化が進んでも、舞台の主役は人間なの
だという思いを強くした。

スタッフ専用の出入り口を出て、忙しいなか、快くガイド役を引き受けて
くれた中村氏と記念写真を撮る。外に出て、ガイドブックを買いそびれたこ
とに気づき、再び係員の許可を得て劇場内の売店で「Souvenir Program」
を購入した。

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劇場内を案内してくださった中村さん(左) 共同研究者の加藤さん(右)

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共同研究者と。劇場を背景に記念撮影。

2009年8月 4日

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