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五十嵐綾野さんの寺山修司論(連載⑲)
寺山修司と数字地獄
五十嵐 綾野
寺山修司は数字に取りつかれていた。呪われていたと言ってもいい。作品に見られるのは、数字と言葉をかけ合わせた言葉遊びだ。それをただのナンセンスとして片づけることができるだろうか。数字は日々の生活の中に溢れている。時計、リモコン、携帯電話、パソコン、時刻表、ナンバープレート、お店など。挙げていけばきりがない。
数字が苦手だ。なんだか怖い。増えたり減ったり極端だ。私が数ある数字の中で一番恐怖を感じるのは、デジタル数字である。特に、朝のニュース番組の隅に出ているデジタル数字。数字が入れ替わる瞬間の、ぼんやりと薄くなる数字が怖い。たまたま見てしまった時は憂鬱だ。あの一瞬は何なのか。何者かにカウントダウンされているようだ。
数字式のデジタル時計は、針と円周で示されるアナログ時計より数字が直接訴えてくる。寺山作品によく出てくる柱時計を思い浮かべてみる。柱時計は「家」の象徴として使われていたのだが、もしもこれがデジタル時計だったらどうなるのだろうか。そうなると「家」という限られた空間ではなく、もっと大きなものの支配力を感じる。
寺山の長歌『指導と忍従』には数字が多用されている。
「無産の祖父は六十三 番地は四五九で死方より 風吹き来たる 仏町 電話をひけば 一五六四 隣へゆけば 八八五六四 庭に咲く花七四の八七 荷と荷あはせて 死を積みて 家を出るとも 憑きまとふ 数の地獄は 逃れ得ぬ!」
このように、どんどん続いていくのだが、歌の内容としては一貫して土着のイメージが付きまとっている。この長歌はぜひ声に出して読んでもらいたい。リズムが面白い。よく見ると、漢数字以外にも数字が隠れているのがわかる。私が数字に恐怖感を持つのは、何者かに支配されているかのような印象を受けるからである。ところが、四五九=地獄・死後苦、一五六四=人殺し、八八五六四=母殺しというように、寺山は勝手に地獄を作り出している。自分で作った地獄の中で苦しんでいる。
日本において、不吉な数字は4(死)と9(苦)である。寺山の長歌にも出てきているとおりである。これらは数字から来る音から連想されるためである。4と9を合わせると13になる。この数字はアメリカで不吉とされている。同じく映画『オーメン』で有名になったぞろ目666も悪魔の数字とされる。
オーメンの666は不吉だが、ぞろ目といえば、幸運という考えもある。ナンバープレートのぞろ目は高値で取引されている。紙幣コレクターの間でもその対象となる。一番身近なのは、ホームページの訪問者数のカウンターの数である。ぞろ目や切りの良い数字になると「キリ番」と言われ幸運とされる。
「続いた数字が三、産で死んだが三島のおせん おせんばかりがおなごじゃないよ、かの京都は極楽寺坂の門前で 小野小町が三日三晩 飲まず食わずに野たれ死んだのが三十三、とかく三という字はあやが悪い」
これは映画『男はつらいよ』に出てくる寅さんの口上の一部である。流れるような言葉で楽しんでいるうちについ聞き流してしまうのだが、数字がたくさん入っている。文字にするとそれがよくわかる。音から連想される言葉をどんどん繋いでいく。数字の中に、不思議な力があるという考えはロマンチックである。しかし、実際に4や9を除いた部屋の配置になっているのを見るとぞっとする。明るい数字の話より暗い数字の話が多いのはなぜだろう。私は子供の頃に聞いた「4月4日4時44分44秒に起きる怪奇現象の話」をいまだに忘れることが出来ない。
2009年8月20日
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