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五十嵐綾野さんの寺山修司論(連載22)
ヴィジュアル系はアングラか?
五十嵐 綾野
ヴィジュアル系。今では誰もが知っている言葉である。ところが、音楽のジャンルに、ヴィジュアル系というカテゴリーは存在していない。現状は、男性が化粧をしてバンドをやっているだけでこのように呼ばれてしまう。このジャンルは80年代後半、Xの登場により広く知れ渡るようになった。イメージするのは、白塗りにどす黒い化粧をした中性的な男性バンドである。彼らはそのヴィジュアルを反映するかのような過激なパフォーマンスにより、ファンを熱狂させる。曲調は、バンドにもよるがハードロックからポップス、昭和歌謡曲まで実に幅広い。共通して付きまとっているのは、抑圧された孤独感だ。
なぜ白塗りにするのか?ヴィジュアル系と縁がない人たちによく聞かれる質問である。単純にインパクトがあるからである。例えば初期のXのメンバーのファッションは今見ても斬新であり、到底真似できない凄味がある。白塗りといっても、全てのバンドが真っ白に塗っているわけではない。歌舞伎の女形を思い浮かべてほしい。塗る部位も顎から耳、首筋まで人によって様々である。
白塗りのルーツとして考えられるのが寺山修司である。寺山の映像作品には、しばしば白塗りの人物が登場する。寺山の場合はインパクトの問題ではなく、没個性の象徴としての白塗りである。そこまで考えて、現在のヴィジュアル系が白塗りにしているかはわからない。寺山の没個性としての白塗りが、現在では個性の象徴としての白塗りに変化しているところに注目したい。
アングラと言えば寺山。寺山といえば若者。寺山は男女問わずに人気があったようだが、ヴィジュアル系はそうではない。主に好んでいるのは、10代・20代の女子である。それも、現実から離れた夢見る少女タイプである。そういった意味ではアングラである。ストレスのはけ口をヴィジュアル系に求めていたのかもしれない。個性を求めるヴィジュアル系バンドはその絶大な支持を受け異常な盛り上がりをみせることになる。
ところが力のあったバンドが次々と解散していき、2000年になるとブームは下降していった。夢見る少女は大人になっていき、実力のあるバンドは化粧を落としていった。視覚重視のバンドでは生き残れないのだ。現在でも活躍しているGLAYがかつてヴィジュアル系だったということも忘れられてきている。
私は、アングラというと60年代・70年代のごちゃごちゃした新宿を思い浮かべる。サイケ族やヒッピーなど東洋も西洋もなんでもありである。文化だけでなく社会情勢も大きく動いていた時代である。私から見れば、地上も地下も同じように見える。いくら寺山が地下で演劇をやっていたからと、裏側に追いやるのはおかしい。
寺山が没個性を追求し、仮面をかぶっていたことは正解だったと言える。個性的であることは素晴らしいと言われた時もあったが、なんてくだらない言葉であろう。その言葉だけで全て済んでしまうのは問題だ。ヴィジュアル系の歴史を見てもそれがわかる。寺山に文章の才能があったのは間違いない。それに加え読書家であったことも大きい。それが絶対の自信につながったためにただの「イロモノ」で終わらなかったのだ。
ヴィジュアル系がここ数年、新しいうねりを見せている。「ゴシック(ゴス)」という西洋文化が取り入れられるようになった。そして、耽美趣味や猟奇趣味といった、澁澤龍彦や夢野久作のような世界が好まれている。もちろん寺山的世界も健在である。白塗りに学ランといったバンドも存在している。なんといっても、海外での人気である。ニュースでゴス服を着た外国人を見ると眩暈がする。日本だけでなく、世界にまでヴィジュアル系のうねりは続いているらしい。もちろん、アニメ、マンガ、ゲームの影響もあるのでヴィジュアル系のみとは言い切れない。そろそろ本腰を入れて新たな分野として考えていく時期かもしれない。
2009年8月31日
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