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野沢尚氏の講演記録(8)
僕は監督コースで卒業して、映画監督になりたかったんだけれども、卒業制作で監督を作ってて、やっぱりカリスマ性がないということに気づいたんですね。周りは素人の学生スタッフだから、色々文句を言うわけなんだけれども、それを自分で制御できないというか、制御できるだけの人間的魅力がないということに卒業制作のときに気がついて、ひとりでできる仕事を選ぼうと思ったんです。脚本というものは高校時代から書いていたから、脚本家でまず世に出ようという風に思って。脚本というのは個人で、自分で納得したものを書き上げて、それを応募すればいいわけですから。
ところがプロの仕事というのは、書き上げた脚本に対して、色んな人が色んなことを言う。ある人は賛成するけれど、ある人は反対するという、要望や希望の海の中を、脚本家が泳いでいかなければならない。全然個人作業じゃなかったということに気づいたんですけれども、そういう仕事なんですね。それがいま、皆さんには実感として分からないことだと思うんですけれども。話し合いをやってて、「この人は何を言いたいんだろう。どうやら言葉が足りないみたいだな。何か誤解して伝わっている気がする。でもこの人の言いたいことを汲み取ろう」と思わないと、やっていけない仕事。やっぱり人対人の仕事だっていうことを痛感しました。
文芸学科だから小説家を目指す人もたくさんいると思いますけれども、そこが一番大きな点で、どこか人対人の、大勢の人間を相手にする仕事に疲れたというわけではないですけれども、なかなか自分の思い通りにいかない。脚本を書いて、それが映像化されても、たけしさんや龍さんが作ったみたいになってしまうと。だったら自分ひとりで完結する仕事に行きたいということで、いま小説の世界に体半分行っていますけれども、そういう道を進んだような気がします。
小説に行ったというのは、またもうひとつエピソードがあるんですけれども、『さらば愛しのやくざ』から三・四年経った頃だと思うんですけれども、『集団左遷』っていう映画があって、サラリーマンの奮闘を描いた社会派の集団劇なんですけれども、その仕事をしたとき、例によって東映という映画会社ですから、プロデューサーもものすごいリスクを背負っているから、色んなことを言う。とても辛い打ち合わせがずっと続いたときに、プロデューサーも含めた四・五人の打ち合わせだったと思うんですけれども、旅館に入ったんですよね。プロデューサーが僕の書いた脚本をコピーして、それにここをこうしたいとか書いたものがあって、とにかくこれを見てくれないか、と。こういう風に直したものを読んでほしいと言われたんですね。それを見たときに、色んな打ち合わせの中で、セリフが長いとか、ここのセリフをもっと削ってほしいという要望があって、それはでも役者の生理もあるし、監督の生理もあるから、削るというのは仕方ないだろうと。だけどそのコピー台本を見ると、ト書きが削られているんですよね。読んだことのある人は分かると思うけれども、僕の脚本というのは、ト書きの書き込みが多くて、人間の心理状態であるとか、そういうものを克明に書く癖があるんですよね。人によっては、ここがうるさいじゃないかと、そこまで書かなくていいじゃないかという気分になる。それでつい、ト書きを消しましたみたいなところがあるんですよね。それを見たときに、脚本という仕事の、これが宿命なんだな、と。
2004年7月 2日
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