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野沢尚氏の講演記録(11)
僕は若い人の脚本を読む機会が結構あって、コンクールで読んでいるんですけれども、いまふたつのコンクールの審査員をやってて、ひとつが城戸賞で、卒業生ということで、今年で審査員をやって二年目になるんですけれども、もうひとつがテレビ朝日の賞金八百万円という破格の賞で、ちょっとやりすぎだと思いますけれども、その審査を二年やりました。
特に今年の城戸賞の脚本は皆さん読まれたほうがいいと思いますけれども、僕は本当にこのコンクールで裏切られつづけてきて、要するにいいものなんてもう生まれっこないと。もう若い人間には何ひとつ期待なんかしないと。彼らが書けないんだったら、俺が書くからいいっていう思いで、いつも審査を終えるみたいなところがあって、あんまり期待していないんですけれども、今回の城戸賞で巡り会った『お母さんの思い出』という脚本は、大げさに言うと、これまで審査員をやってきたのは、この脚本と巡り会うためにやってきたのかなと。それくらいいい脚本だと思いました。
ある少年が主人公なんですけれども、お母さんが自殺していて、そのトラウマを引きずっていて、それを解消したくて、少年は漫画家志望なんですけれども、絵コンテをいつも描いているんですね。漫画にはヒーローが出てきて、そのヒーローが悪人を倒すみたいなものなんですけれども、そういう絵コンテの世界と、彼の現実の世界が常にカットバックしていくようなストーリー展開なんですけれども、そのスタイルよりも何よりもこの作者が、生きることに悩んでいる。どうやって生きるか、生きるってどういうことなんだろうとか、勉強って何なんだろうとか、そういう疑問に対して、たくさん喋っているんですね。問いを投げかけられた人が。それに対する答えが、その審査会の中では、これは作者の言葉だろうと。小学校五年生の喋る言葉じゃないと、そういうセリフになってないじゃないかという人もいたんですけれども。でも僕は違うんじゃないかと。確かにそういう部分もあるだろうけど、映像化になるときに直せばいい話で、少なくともこの作者は自分の言いたいことをたくさん持っていて、それが原稿用紙に溢れていると。それを大事にしなければいけないということを力説したんですけれども、そういういい脚本です。本当に四年か五年に一本という感じがするんですけれども。非常にシンプルな世界で、面白いストーリーを思いつけば、世に出られる世界なんですね。
僕にしてみると、僕のいま抱えているテレビ番組というのは、非常に層が薄いと思っています。確かに番組枠は十五本、十六本連続ドラマがあって、若い人がどんどん入ってくるんだけれども、作家の顔が見えない。この女流作家がこの女流作家の脚本を書いていたって、あんまり変わらないんじゃないかっていうようなものにしか僕には見えない。あんまりこういうことは業界の中では言えないことですけれども(笑)。新人は本当に入ってこられる世界だと思うんですね。ただ実は言うほど簡単ではなくて、僕の感覚で言うと、千人の志望者がいたら、たぶん一人だと思います。デビューできるのは。デビューしても二本目、三本目が書ける人は、たぶん東大に入るよりも遙かに難しいと思います。一握りの人間しか入れないんだけれども、それでも層が薄いということになるんですね。実際に中にいる人間としては。
ですから僕がみなさんに望むのは、ある意味でアメリカンドリームみたいなものが築ける世界なんで、面白いものを一本書けば目に止まって賞を獲れる世界なんで、作家になり方として、誰かの弟子になるとか、脚本を読んでくださいってよく来ますけれども、そんなことよりもコンクールの期日までに原稿を書き上げてそれを出すというのをひたすら続けることが、そういう形で出てくる人の方が強いんじゃないかと思うんですね。ライター志望の人にはとにかく頑張って、とにかく面白いストーリーを考えて、思いを溢れんばかりに原稿用紙にぶつけてほしいと思っています。
2004年7月 2日
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